※記事にはプロモーションを含む場合があります
ラテン語で書かれた記憶術の三大古典
記憶術は古代ギリシアで活躍した叙情詩人として非常に優れていたシモニデスが発案者であります。
彼自身の書による記憶術の著書は残っていませんが、その300年位後のローマ時代で、シモニデスの記憶術について言及する書が三冊登場します。
これらは全てラテン語で書かれいるため「記憶術の三大古典」とも言われています。この3つの古典とは、
- 「ヘレンニウスに与える修辞学書(ヘレンニウスへ)」 著者:不詳/紀元前80年頃
- 「弁論家について」 著者:キケロ/紀元前55年
- 「弁論術教程(弁論家の教育)」 著者:クィンティリアヌス/紀元88年頃
になります。
いずれの書にもシモニデスの記憶術のことが載っています。しかし厳密にいえば、シモニデスが祝宴を開催した場所に諸説もあって統一されていないといいます。
「ヘレンニウスに与える修辞学書(ヘレンニウスへ)」は記憶術の重要論文
この三冊のうち、記憶術についてもっとも詳細なのが「ヘレンニウスに与える修辞学書」になります。この書は作者不明ですが、紀元前80年頃にローマで著されたのではないかといわれています。
「ヘレンニウスに与える修辞学書(ヘレンニウスへ)」は、記憶と記憶術のこと、そして弁論術と関連付けた唯一完成された論文であるといいます。そのため記憶術の古典においても、この書がもっとも重要であるとされています。
「ヘレンニウスに与える修辞学書」では、記憶には2種類あると述べています。それは
- 生来的な記憶力
- 人為的な記憶力
この2種類です。
生来的な記憶とは、文字通り、生まれつきの記憶の力をいいます。フォトグラフィックメモリーなど、写真のように記憶できる人もいますが、こうした記憶力は、先天的な資質によるものです。
しかし「ヘレンニウスに与える修辞学書」は、一方で、後天的に記憶力を伸ばすことができるとしています。これが人為的記憶力であり、これこそ記憶術を使った方法であるといいます。
「ヘレンニウスに与える修辞学書」は、記憶術に関して詳細に述べられているといいます。
キケロの「弁論家について」
「弁論家について」はキケロの見解が述べられた書で、こちらでも解説していますので、ここでの説明は省略いたします。
この書は、同じくローマの雄弁家のキケロによって、紀元前55年に書かれたといいます。この書は、雄弁家達との対話形式で書かれています。
シモニデスの記憶術に関する部分は、第二巻の86~88節に掲載されています。ここでは、雄弁家のクラックスとアントニウスとの対話の中で記憶と記憶術、そして弁論術について述べられています。
この短い節の中において場所法のことが述べられています。
クィンティリアヌスの「弁論術教程(弁論家の教育)」は記憶術を否定
クィンティリアヌスの「弁論術教程(弁論家の教育)」は、キケロの「弁論について」が書かれた約1世紀後に、同じくローマで書かれています。
この書は場所法に関して詳細な記述があります。クィンティリアヌス自身が場所法を習得していて、学生を前にして記憶術のすごさを披露しています。
しかしクィンティリアヌスは、記憶術に関しては否定的な態度も示しています。
その理由は、記憶術を使うための準備作業が煩わしいからというもの。ごもっともではあります。
記憶術では、暗記する事項を場所(記憶の宮殿)と関連付けて覚えていきます。クィンティリアヌスはこの作業が「労多く、効少なし」と結論付けます。
そして人為的かつ操作して暗記の手助けを行う記憶術に対して、否定的な見解を示しています。
しかし彼自身は記憶術を使いこなしていたんですね。
クィンティリアヌスが記憶術に否定的な姿勢を取ったのは、おそらく当時は記憶術が「弁論」のみで使用されていたからだと推察できます。
弁論は、流暢なトークが必要なことも少なくありません。自然に語る弁論においては、記憶術を使って変換しながら思い出す作業は、流暢な弁論を妨げることもあったのではないかと思います。
弁論という現場を踏まえると、いちいち記憶術を使って思い出しながら弁論することが、ややもすると流暢さを失い、それでクィンティリアヌスは記憶術を否定したのではないかと推察します。
もっともクィンティリアヌスは、少々偏っている印象も受けます。そういう偏向のある姿勢(バイアスが効いた物の見方)が、記憶術に対して否定というシタンスに出ているのかもしれません。
記憶術の三大古典書に共通することとは
以上のように紀元前後においてのローマ時代にラテン語で書かれた記憶術の古典三冊の概略を紹介しました。
三冊の記憶術の古典書に共通しているのは、いずれも
- シモニデスの記憶術(場所法)を紹介
- イメージを使用した記憶術
- 記憶術を弁論に活かす
という三点になります。
当時は、弁論という世界において「記憶術をどう活かすか」が最大の関心事でありテーマでした。現代とは使用するシチュエーションがかなり違います。
現代では、受験や資格試験における膨大な暗記に使用される傾向です。そしてこの使い方こそ、記憶術の効果的な使用法でもあります。
記憶術は暗記を助けるツールであることは2000年前と現代とでも変わりはありません。また現代の記憶術は、古典的な記憶術よりも進化している部分もあります。
より習得もしやすくなっています。
現代の記憶術を使用して実生活に役立てた方が何倍も効率が良いと思います。