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ジョルダーノ・ブルーノと記憶術
ジョルダーノ・ブルーノ(1548年~1600年)はイタリア出身の哲学者で、神秘学者でもあり、ドミニコ会の修道士です。
当時の教会の教えに違和感をおぼえ、体制側のキリスト教の思想に反旗を翻して、独自の道を歩みます。が、最後は異端審問にかけられて「火あぶりの刑」で処刑されてしまいます。
ジョルダーノ・ブルーノといえば、地動説を唱えたコペルニクスに賛同し、修道士だったものの反キリスト教の教えに傾倒したとして、最後は火あぶりで死刑になったことが知られていると思います。
ところでジョルダーノ・ブルーノは「記憶術」とも縁があります。実際、記憶術の書も何冊か残しています。ちなみにジョルダーノ・ブルーノが異端裁判にかけられて処刑された原因が、皮肉なことに「記憶術書」だったといいます。
ジョルダーノ・ブルーノは、ドミニコ会で修行しているときに「ヘレンニウスへ」などの古典記憶術を知り、記憶術を習得。彼は記憶術に精通していたといいます。
記憶術における三大古典【紀元前後ローマ時代】
記憶術で記憶力の良さが評判だったジョルダーノ・ブルーノ
実際、ジョルダーノ・ブルーノは記憶術のワザを披露して名声を得ています。
ジョルダーノ・ブルーノの記憶力の良さは、33才のときにパリに移住したときに、フランスの国王の耳にも入るほど。その評判によって、国王アンリ3世と会見しています。
しかし彼の記憶力の良さは、実は「記憶術」だったわけですね。それにしてもいつの時代でも、記憶術によって名声を得たり成功するケースは多いことがわかります。
で、そんなジョルダーノ・ブルーノは、記憶術本として
「イデアの影について」
「キケルの歌」
「記憶の術(秘印)」
「三十の像の燈」
などを著します。
ジョルダーノ・ブルーノの「イデアの影について」
ジョルダーノ・ブルーノの記憶術書の中でも「イデアの影について」は有名かもしれません。
「イデアの影について」は、ヘルメス主義や新プラトン主義を根底に宿している魔術的な記憶術書であるといいます。ほぼ同年代のオタリアのカミッロの「劇場」を継承する内容といいます。
ジュリオ・カミッロの「記憶の劇場」オカルト・魔術的な記憶術【16世紀】
ちなみに「ヘルメス主義」とは、魔術・魔法、占星術、錬金術、神智学、自然哲学などを取り扱う「ヘルメス文書」に基づく思想をいいます。
また「新プラトン主義」とは、宇宙の根源的存在であり創造主である「一者」「イデア」に関する神秘学をいいます。
ジョルダーノ・ブルーノは、こうした神秘学に傾倒していましたが、これらの思想を覚えるために「記憶術」を使っていたというわけです。
「イデアの影について」は占星術的記憶術
「イデアの影について」に登場する記憶術は「天宮図」に基づくものです。天宮図とは「黄道十二宮」のことで、つまり「占星術」を下地にした記憶術なわけです。
ちなみに黄道十二宮とは、白羊宮、金牛宮、双児宮、巨蟹宮、獅子宮、処女宮、天秤宮、天蝎宮、人馬宮、磨羯宮、宝瓶宮、双魚宮の12ハウスのことですね。
黄道十二星座を記憶術に使った先駆者にメトロドロスがいますが、ジョルダーノ・ブルーノも同じように占星術の天宮図を使用しながら、天宮図を分割して使っていた点が独創的でした。
哲学者メトロドロスが記憶術を完成~占星術的記憶術【BC300年】
ジョルダーノ・ブルーノの占星術的記憶術の特徴は、
- 天宮図を12分割し「黄道十二星座」を記憶の場(記憶の宮殿)とする。
- 黄道十二星座の12宮に対して、出生、富、兄弟、両親、子ども、病、結婚、死、宗教、統治、慈善、投獄の意味を付与。
- またハウス(宮)を三分割して、一つのハウスに3つの意味を付与している。つまり黄道十二星座を36宮として使用。
- さらに七惑星(日、月、水星、金星、火星、木星、土星)に対して、第一のイメージから第七のイメージまでの7つの意味を付与し、合計49の記憶の場(記憶の宮殿)とする。
- しかもインド由来の天宮分割である「28宿」を記憶の場(記憶の宮殿)として導入。
- 世界を「超天上界」「天上界」「下層四大世界」という3つに区分。
このような占星術的な記憶術です。アグリッパの「隠秘哲学」からの引用が多いといいます。360度に分割した天宮図を「記憶の場(記憶の宮殿)」として使用しています。
ジョルダーノ・ブルーノのその他の記憶術
ジョルダーノ・ブルーノは「イデアの影について」のほかにも記憶術本を著しています。それらの記憶術は、
- どんな単語や言葉も一つのイメージに置き換えることができる変換記憶術「記憶の輪」。これは「ルルの輪」に似ている。
- 「30の文字が配列された図形」を記憶の場(記憶の宮殿)として使うやり方。
といったもので、過去の記憶術を改変している様子です。
ジョルダーノ・ブルーノは「30」という数字を使用していますが、ギリシアの魔術に関する写本には「神の名称が30文字」とあり、こうした神秘学からの影響があって、30という数字を多用していたのではないかと推測もされています。
またジョルダーノ・ブルーノは、記憶術の基本原理として、
・場のための規則
・イメージのための規則
としてとらえています。
このことは、現代の記憶術でも同じで、
・記憶の宮殿
・イメージ
この2つが、イメージ型記憶術の原理であることは、今も昔も変わりがありません。
ジョルダーノ・ブルーノとルネサンスの終わり
哲学者であり神秘学者であったジョルダーノ・ブルーノは、記憶力の良さを記憶術によるものとして披露をしていましたが、彼の著した記憶術は「魔術」的であり、「占星術」であったため、異端裁判にかけられることになります。
しかもジョルダーノ・ブルーノは、キリスト教では禁止されている思想である「生まれ変わり(輪廻転生)説」を支持し、さらにコペルニクスの地動説を上回る「天動説」を信奉。
これら複数の理由により処刑されることになります。
ジョルダーノ・ブルーノの天動説は、太陽を中心に宇宙は運動しているというコペルニクス的な学説を上回り、宇宙全体が運動をしているといった宇宙観であり、現代的な宇宙観を有していました。
ジョルダーノ・ブルーノは1600年1月8日に処刑。ブルーノは処刑を宣告する執行官に対して「私よりも宣告を申し渡したあなたたちの方が真理の前に恐怖に震えているじゃないか」と言い残します。
ジョルダーノ・ブルーノが処刑された1600年は、ルネサンス時代の終わりとされています。
ちなみに20世紀に入ってから、カトリックの教皇ヨハネ・パウロ2世は、「ブルーノへの処刑判決は不当であった」とし、ブルーノの名誉を完全に回復しています。しかし500年近く経ってからの判断です。愚かしいにもほどがあります。
ジョルダーノ・ブルーノは、当時の愚かしい中世のキリスト教的全体主義の犠牲者でもありますが、先駆的で斬新な思想の持ち主だったことがわかります。